10年以上前、初めて一人でソウルを旅しました。どうしても行ってみたいアートビエンナーレがあったのですが、この趣味に友達をつき合わせるのは忍びなく、えいやっと一人で行ってみたのです。
▼ソウル楽しかったなあ。また行きたい。当時は外国で携帯電話なんて繋げられなかった。
初めて一人で訪れた韓国は、美しいものにあふれていて大満足のひとり旅となりました。
帰りの空港でウォンが少しだけ余ってしまい、使い切るために何か食べようと見つけたのが、生まれて初めて口にする平壌冷麺でした。
それまで韓国料理といえば、チヂミや参鶏湯くらいしか知らなかった私。この旅行でソルロンタンやキンパの美味しさに目覚めたものの、冷麺は未体験ゾーンでした。
しかし、空港で食べた平壌冷麺は、その旅行のハイライトとなるほどの衝撃的な美味しさだったのです!
元々酸味のあるものは好きだったのですが、ニンニクがあまり得意ではない私にとって、その平壌冷麺のさっぱりとした味わいは、旅の疲れを癒してくれる最高の癒しでした。
体に染み渡るような優しいスープと、独特の麺の食感。本当に美味しくて、「こんなに美味しいものがあるんだ!」と感動したのを今でも鮮明に覚えています。
テーブルに運ばれてきたとき、はさみで麺を切ってくれたのにもびっくりしました。

ああ、あの冷麺をもう一度食べたい。
終わらない冷麺探しの旅
その感動を胸に、東京に戻ってきてからも冷麺を求めて色々なお店に足を運びました。ファミレスの期間限定メニュー(ジョナサンの一部の店舗で真夏に冷麺があった)、仕事の合間のランチで立ち寄る焼肉屋さん、焼肉の締めとして食べる冷麺、そして盛岡冷麺も試しました。
しかし、どの冷麺もあの時空港で食べた平壌冷麺とは何かが違うのです。
スープも麺も、まるで別物。韓国式の焼肉屋さんで食べる冷麺も、確かに美味しいのですが、あの時の「これだ!」という衝撃には出会えませんでした。「もうあの美味しさには出会えないのかな…」そう諦めかけていました。
昨年冬にソウルに旅行に行きましたが、そのときも空港内の「平壌冷麺」で店を探したのですが、あのときの空港が仁川だったか金浦だったかも覚えていなくて、結局見つけられませんでした。

いやいや、めっちゃ寒かったから、見つけても無理。
▼うん、寒かった。
予期せぬ場所での運命の出会い
そんな折、先日平日に用事があり有給休暇を取得しました。あっという間に用事が終わってしまったので、「たまには地元の商店街で美味しいものでも食べようかな」と思い立ちました。
平日のランチタイムしか食べられないものを、と前から気になっていた近所の小さな韓国料理屋さんへ。
外観からして、きっと朝鮮半島の方が営んでいるお店だろうなと感じさせる雰囲気。少しドキドキしながらも思い切って入ってみると、店内はこざっぱりとしていて、朝鮮半島出身と思われる女性二人組が楽しそうに韓国語でおしゃべりしながら食事をしていました。店員さんも外国ルーツの方のようです。
▼テーブルに置かれた水入れ。これがもう韓国式ですね!
ランチメニューを広げ、何を食べようか考えました。その日はとても暑かったので、温かいスープの気分ではないな…と悩んでいると、メニューの下の方に「水冷麺」と「冷麺」の文字が!
水冷麺と冷麺の違いはよく分からなかったのですが、水冷麺はスープがたっぷり張られていて、冷麺は全体的に真っ赤でスープが少なめ。辛いものやキムチがあまり得意ではない私は、迷わず水冷麺を注文しました。
そして運ばれてきた水冷麺を見て、私はハッとしました。
なんと、麺の色が白いのではなく、茶色。冷麺ってこんなに茶色だったっけ???
まるで蕎麦のような色。今まで東京で食べた麺ってもう少し透明感があって薄い色だったような気がします。
「これって、あの時の冷麺に似ているかも…!」そう思いながらスープを一口飲むと、さっぱりとした出汁と絶妙な酸味が相まって、まさに求めていたあの味!
麺は蕎麦よりも更に細くて、最初から食べやすい長さに揃えられていました。田舎蕎麦のような色なのに、食べてみるともちもちとした弾力があり、本当に美味しい。
元々うどんより蕎麦が好き、更科ではなくて田舎そばが好きな私にとって、この水冷麺の麺はまさに理想的でした。何より、あの忘れられないさっぱりとしたスープの味が、疲れた体に染み渡るようでした。あっという間に完食です。
水冷麺=平壌冷麺だった!
食後、「水冷麺って何だろう?」と気になって調べてみました。
すると、水冷麺とはどうやら平壌冷麺のことで、一般的に冷麺と区別する際には、そば粉が入っているものを水冷麺、入っていないものを冷麺と呼ぶことが多いのだと知りました。
つまり、私が10年以上前にソウルの空港で感動した平壌冷麺はそば粉入りの水冷麺で、それ以降東京で「これじゃない」と感じていた冷麺は、そば粉が入っていない、またはそば粉の割合が少ない別の種類の冷麺だったのかもしれません。
まさか、家からわずか5分ほどの場所で、長年探し求めていたあの平壌冷麺に出会えるとは、夢にも思いませんでした。
韓国料理の奥深さと、食との出会いの不思議さを改めて感じた一日でした。
よくみると土日もランチ営業があるそうなので、また食べに来られる!これからも、このご近所の韓国料理屋さんにはお世話になることにします。
この出会いは何なのか
感動しながら家に着いて、のんびりとアイスクリームを食べました。

水冷麺美味しかったなあ。
お腹がいっぱいになって、冷静に考えてみたのですが、10年以上前の空港で食べた平壌冷麺、ものすごーく美味しかったのは記憶しているんですが、詳細は朧気...
あれ。
その時の旅行は9月の半ばでした。ソウルは東京よりも少し涼しくて秋風が吹いていましたが、それでもやっぱり暑かった、そして疲れていた。
今回の水冷麺体験、この日も暑くて良い天気、お店に入るまでにわたしは自転車を20分くらいこいでいて、ほんのりと疲れていました。
あれれ、
つまり食前の条件が近かった。もちろん水冷麺はとってもとっても美味しかったのですが、「あのときの冷麺!」と思ったのは、もしかしたら、
「あのときと同じ条件下で食べる冷麺!」
だったのかもしれませんねえ。
でもどちらでもよいのです。空港で食べた平壌冷麺が美味しかったのも、近所で食べた水冷麺が美味しかったのも事実だから。
これからも美味しい「冷麺」との出会いがありますように!
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